「では次に、『魔法少女リリカルなのは』ですが……」 「う〜ん……絵も上手いしプロットを見る限りじゃ確かに面白いんだが……『魔法少女』ってのがなぁ」 「私もちょっとジャンプの柄≠カゃないかと……」 「編集長はどう思われますか?」 その言葉に編集者たちの視線が恐る恐る編集長に向けられる。 ごくり、と固唾を飲む中、編集長は盛大に目を見開いて叫んだ。 「次の新連載はこれでいく!」 「ええ!? 本当にいいんですか!? 理由を聞かせてください!」 「ジャンプじゃアンケート取りにくいと思いますよこれ!?」 様々な不平不満が上がった、しかし、編集長はその全てを聞き入れ、それでもなお拳を握りしめ熱弁する。 「たしかにこの作品はジャンプ向けじゃない、それは認める。だが、この作品には光が、決して濁らない光がある!」 それを聞いた編集者たちは思った。「言葉の意味はよくわからんがとにかくすごい自信だ」と。
こうしてある意味編集長の独断ともいえる一押しで連載は始まった。
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「私高町なのは。小学三年生」 「我、使命を受けし者なり。契約のもと、その力を解き放て。風は空に、星は天に、そして不屈の心はこの胸に。この手に魔法を。レイジングハート、セットアップ!」 「ジュエルシードは全部で21個、お願いだなのは! 僕に力を貸して!」 ※新連載魔法少女リリカルなのは! 魔法少女始めます!
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なのはの連載が始まり2ヶ月、作者である漫画家・都築真紀は困っていた。 都築自信も正直ジャンプでやる漫画ではないと思っていた為、ある程度予想はしていたもののショックは隠しきれなかった。 「はーい! 開いてます!」 「お邪魔します。お疲れさまです先生」 「あ、お疲れさまです新房さん」 部屋に乗り込んで来たのは担当編集者の新房昭之だった。 「先生。今週のアンケート結果ですが、やはりよろしくありません」 「そうですか……困りましたね」 「はい……そこで、思い切ってテコ入れをしませんか? このままでは打ち切りになっちゃいますよ」 「テコ入れ……やっぱりバトルを入れなきゃ駄目ですか? 僕としてはこのまま魔法で街の住人たちを幸せにしていくっていう王道の魔法少女を書きたかったんですが……」 「先生のお気持ちもわかりますが、プロならば読者を意識してこそだと。そこで、先日もう一人の魔法少女のライバルキャラとして発案していただいた『フェイト・テスタロッサ』なのですが、思い切って設定変更しましょう」 「フェイトを? うーん、彼女は自信のあるキャラクターなのであまり変えたくないんですよね……。 「思い入れがあるのはいいことですが、変えます」 「酷い……」 「まず、彼女の魔法の杖である『バルディッシュ』ですが」 「あ、可愛いでしょ? バルディッシュ。先端がハート型で全体がピンク色ってのが気に入っていて」 「黒い大鎌にしてください。死神みたいな」 「ええええ!?」 「そして性格はもの凄く好戦的にしてください。『運命が言っている……あなたは私に刈られて死んじゃうってさぁ!』とかいっちゃうような」 「原型ないじゃないですか!?」 「あと服装ですが、マントにほぼ裸のレオタードというのはどうでしょう? エロくてインパクトでますよ」 「ただの変態だー!?」 「とにかく、これでいって下さい。きっと人気でますよ。私を信じてください!」 「……やりますよ! やればいいんでしょやれば! 人気でなかったら責任とってくださいよ!? うわーん!」 こうしてなのはのテコ入れは始まった。
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「あなたは、一体……!?」 「私はフェイト・テスタロッサ。運命が言っている……あなたは私に刈られて死んじゃうってさぁ!」 「なのはー!」 「あんたの相手は、私だ!」 「くっ、使い魔か!?」 「あはははは! せやぁ!」 「きゃあああああああぁ!」 ※現れたもう一人の『魔法少女』――! なのはの運命は、どうなる!?
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「アンケート順位アップに乾杯!」 「……乾杯」 仕事場の一角にて、缶コーヒーで乾杯する都築と新房。 「やっぱりジャンプはバトルがないと駄目ですね。この調子で一気にバトル漫画にしちゃいましょう!」 「ぼ、僕の魔法少女が……」 「では次に思い切ってなのはのパワーアップの為に三週くらい使って修行編に入りましょう」 「修行編ですか、まあバトル漫画なら王道ですね。魔法少女なのに……」 「方法は……いままで集めた5つのジュエルシードの魔力だけを命がけで体内に取り込んじゃいましょう!」 「命がけで取り込んじゃうんですか!? もうちょっと地道に行きましょうよ!?」 「いえいえ、修行編で地味な修行はもう古いですので。いまは斬新でお洒落な修行の時代です」 「取り込むのってお洒落ですか!?」 「修行の期間中は無防備って設定で、その間はユーノに守らせます」 「ユーノに!? 彼は喋って少しの魔法が使えるだけのフェレットですよ!?」 「実は本当は人間で体力回復の為にフェレットに擬態してたということにしましょう。フェイト、アルフと相手に戦うときはイケメンの人間体でお願いします」 「だからそんな後付設定ぽんぽん入れるのやめてくださいよ!? 魔法少女のお供は元来動物じゃなきゃ駄目なんですよー!」 「プリキュアだってお供は人間になれるじゃないですか」 「プリキュアは魔法少女じゃない! あれはプリキュアってジャンルなんです!」 「熱弁はいいので、この設定でお願いしますよ。あと修行が終わってなのはが戦えるようになったら、レイジングハートもパワーアップさせましょう。 「ぐううううぅ……! 書きますよぉ! もう!」
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「ふぅ……人間の状態に戻るのも、久しぶりだな」 「なに!? フェレットが容姿端麗のイケメン青年に!?」 「姿形が変わったくらいで、私に勝てるわけないだろ! はああああぁ!」 「くっ! なのはが修行を終えるまで……僕が、いや……俺がなのはを守る!」
「よし、ジュエルシードを取り込んで爆発的に魔力が上がった。ユーノくん! もう大丈夫だ……よ……ゆ、ユーノくん!?」 「……な、の、は……良かった……無事に終わったんだね……」 「あははは! 遅かったななのは! この通りユーノはお前を守って重傷だ!」 「許さない……許さない! レイジングハート……フル――ドライブ!」 『Yes,master』 「たかが魔力が上がった程度で……な、なに!? デバイスが……!?」 「モード――『フルドライブ』……これがレイジングハートのもう1つの姿、レイジングハート・エクセリオン――。 ドン!(効果音) ※モードフルドライブ! これが新たな力だ!
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「あの話以来、人気のなかったユーノの人気がうなぎのぼりなんですよ!」 「それは良かったですね……随分と男らしくなりましたもんね彼、いろんな意味で……うううう……」 「次は新しい仲間や敵が欲しいですね……」 「あ、それは考えてありますよ。クロノ・ハラオウンといって、次元の平和を守る『時空管理局』という組織の正義のお巡りさんで……」 「実はジュエルシードを横取りするために現れた悪人にしましょう」 「だからなんでそういう方向にいくんですか!? 普通に正義の味方でいいじゃないですかー!?」 「普通じゃ面白くないでしょ? 敵は考えているんですか?」 「うーん、実は敵はまだなんですよ。あんまり思い浮かばなくて……」 「ならそろそろ黒幕を出しますか」 「黒幕? そんなの考えてないですけど……」 「フェイトの病弱で優しいお母さんの設定を変えましょう、なんかありきたりで面白くないですし。 「お母さーん!? フェイトより改造がひっでええええええぇ!? 可哀想すぎるでしょフェイトが!?」 「惨劇は、人を魅了するんですよ」 「そんなひぐらしみたいなこと言われても!?」 「じゃあ次の展開はこれでお願いしますね! ついでに四天王とかも出しちゃいましょう! 売り上げいいんですからこのままいけるとこまでいっちゃいますよー!」 「いやあああああああああぁ!?」
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「あなたたちは、一体なに!?」 「ふははははは! 我々は!」 「プレシア・テスタロッサより作られし!」 「傀儡兵にして、最強の4機!」 「その名も……」 「「「「傀儡四天王!」」」」 ドン!(効果音) 「そ、そんな……!? 私は知らない、私は何も知らされてない!?」 「ご苦労だったなフェイト・テスタロッサ……いや、『ニンギョウ』よ。貴様はもう用済みだ、消えろ」 「うわああああああああぁ!」 「フェイトちゃん!? 駄目だ、間に合わない!?」
「大丈夫か?」 「あ、あなたは一体……?」 「僕はクロノ・ハラオウン。いわゆる――正義の味方さ……いまは、ね」 ※新たな敵! そして新たな仲間!?
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「あんまり嬉しくないです」 「クロノ×ユーノがほとんどでしたが」 「BLじゃないですか!? 腐人気あったんですかこの漫画!?」 「まあそれは置いておいて、ついに漫画も佳境に入って来ました!」 「そうですね。ジュエルシードをパクろうとしていたクロノも、正義に目覚めて改心しましたし、プレシアにボロ雑巾のように捨てられたフェイトとも和解しましたし……そのさいにアルフは犠牲になりましたが……」 「まさに忠犬でしたね! あははは!」 「笑い事じゃねー!? 魔法少女のお供がなんで死ななきゃなんないんですかー!?」 「アルフは犠牲になったのだ。人気の犠牲にな……」 「わかってますよ!?」 「さて、来週からはプレシアの居城、時の庭園で四天王とも決着をつけるときです……もう一人一殺で行きましょう、なのは以外」 「殺すんですか!? もしかして新キャラのクロノのお母さんのリンディも!?」 「はい! なのは以外全員凄まじい相打ちをさせましょう! 大丈夫です! あとでどうとも理由つけて復活させれますから!」 「死ぬ死ぬ詐欺じゃないですか!? もうそういうのって飽きられてると思いますよ!?」 「ジャンプの伝統ですから! 相打ち! 死亡! 復活!」 「努力・勝利・友情はどうしたあああああぁ!?」
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「うおおおおおおぉ!」 「こいつ、まさか自爆する気か!? 止めろ、止めろおおおおおおぉ!」 「あとは、頼んだよ、なのはー!」
「っ!? ユーノくんの魔力が、一瞬大きく燃え上がって、消えた――!?」
「クロノ、正義を――忘れないでね!」 「畜生おおおおおぉ! 新キャラなんかにー!」
「……今度は、新しく仲間になったばかりのリンディさんの魔力がっ……!」
「母さん。俺も、すぐにいくよ!」 「うがああああああああああぁ!」
「クロノくんっ……!」
「なのは、お母さんに伝えて……私は人形なんかじゃないんだよ鬼ババアってさあああああああああああぁ!」 「失敗作めええええええええぇ!」
「フェイトちゃん、まで……うわああああああああぁ! 許さない、許さないのプレシア・テスタロッサ!」 「くくく、良くぞここまで来たわね高町なのは……」 「みんなの思いを乗せて、あなたを――撃つ!」 「やれるものならやってみなさい!」 ※壮絶! さらば仲間達! そしてこれが最後の戦いだ!
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「とんでもなくインフレしちゃいましょう、ラスボス戦ですし!」 「もう勝手にしてください……その代わりプレシア倒したらしっかりとなのはを終わらせますからね!? 約束しましたからね!?」
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「これが私の全力全開!」 「私はその倍強い!」 「実は実力を隠してたの!」 「私もまだまだ本気じゃないわ!」 「体に反動がくるけど取り込んだジュエルシード以外を更に取り込んで最強のパワーアップ!」 「寿命を代償に全盛期の年齢まで若返ってパワーアップ!」 「じつは私はアルハザード人の血を継いでいて、ピンチになったいまこそその禁断の血が私に力をもたらす!」 「大魔道士の力がいま第二覚醒を向かえた!」 「殺す覚悟と生きる覚悟の相乗効果によって限界以上の力が開放される!」 「フェイトを人形と呼び、全てを壊そうとした過ちを復活した愛娘アリシアに気づかされた今こそ限界以上の力が開放される!」 「「これで、終わりだあああああああああああああぁ!」」 ※最終決着! さらば永遠の魔法少女!
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「あー、終わった……もうイヤだ。なんでこんなの書いてんだろ僕……まあこれでキリもいいし連載終わらせて貰って一年くらい休憩を貰ってこんどこそ王道魔法少女を少女漫画雑誌のどこかで……」 「先生ー! 『なのは』完結おめでとうございます!」 「ありがとうございます……新房さん、いままでお世話になりました」 「はい! そしてこれからもお世話します!」 「……はい?」 「来週から『魔法少女リリカルなのはA's』になのはがリニューアルしますので! 約束通り『なのは』は終わらせたんですから文句はないですよね!?」 「……もういやだああああああああああああああああああああああああああああああああああぁ!」
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