時空管理局に存在する『無限書庫』。そこにはありとあらゆる知識と情報が存在する。
 管理局設立以来、これでもかという情報という情報を積み込みまくった結果の集大成。

 一部からは『ミスカトニック大学図書館』とも呼ばれ、名実ともに次元一のデータベースを誇っていた。
 しかし、その余りにも膨大な情報故にその利用は困難を極める。

 専門の捜索チームを編成し、一つの案件を検索するのにすら半年から一年以上かかってしまうという致命的な遅さ。
 仕方が無い。どんなものを調べようとしても検索すれば類似した情報がごまんと引っかかるのだ。

 その中から目的の正しい情報を得ようとすれば、その一つ一つを閲覧しなければならない。
 人間には目が2つしかなく、腕も2本。指にいたっては10本。その全てをフル活用し、マルチタスクで多重思考し頭から煙を出すほど頑張ろうが、時間がいくらあっても足りない。

 無限書庫担当になった司書達はうつ病になるもの、腰痛を訴えるもの、もう働きたくないと泣きながら辞表を出すものが溢れかえった。
 そんな阿鼻叫喚の地獄に――1人の少年が舞い降りる。

 彼の名はユーノ・スクライア。スクライア一族稀代の天才≠ナある。

 

 ■■■

 

 無限書庫の食堂は賑わいを見せていた。
 遅い・間違ってる・使えないと罵られていた以前とは違い、一人の人物によって無限書庫の状況が改善されその有効性を本局に掲示して以来、人員増加の一途を辿っていたのだから。

 そこには以前のお通夜のような暗い雰囲気はなく、溢れかえるような笑顔が司書達にはあった。
 そんな中、一部にざわめきが起こる。彼らの向ける視線の先には、ズタボロの白衣を来てヨロヨロとテーブルに着席するユーノ・スクライアの姿が。

「おい、見ろよ! あれって司書長だぜ!」

「本当だ! ユーノさん、無限書庫に潜りっきりで一週間に一度そのお姿を拝見出来るか出来ないかというユーノさんじゃないか!」

「うおおおお! あれが伝説の司書長、ユーノ・スクライアさんか! 凄げぇ、俺初めて見たよ!」

「ラッキー! ユーノさんを見れた奴はその日の運気がぐんとアップするんだぜ!」

「違げぇよ馬鹿! アップするのは恋愛運だよ!」

「私は幸せが訪れるって聞いたわ!」

「さすが司書長! リアル青い鳥を地で行ってるぜ!」

「他の奴にもメールするよ! 『お・い・い・ま・司・書・長・が・食・堂・に・居・る・ぞ』、送信!」

 ユーノを見つけた司書達の興奮は納まることを知らなかった。
 それもそのはず、未来の見えなかった未来書庫。それを救ったのがユーノ・スクライアという人物なのだ。

 無限書庫に携わる者ならば一度は耳にする、伝説的人物。
 陸の英雄『高町なのは』が表のエース・オブ・エースならば『ユーノ・スクライア』は裏のエース・オブ・エース。

 司書達からは英雄視されるどころか神を崇める勢いで尊敬されている。
 それが行き過ぎて、根も葉もない噂が一人歩きしているのは自然の成り行きかもしれない。

「ユーノさんが地下から帰ってきたんだって!?」

「きゃああああぁ! ユーノさん、実はJS事件のゆりかごを破壊してミッドの平和を守ったのは司書長だと噂されるユーノさんだわ!」

「1人でガジェットを500機近く沈めたユーノさんが居るって本当か!?」

「何処だ! 面倒だから申請してないだけで実はSSSランクなんて軽く超えてるユーノさんは何処にいるんだ!?」

 メール、電話、あるいは人づてでユーノが食堂に現れたことを知った他の司書達が仕事をほったらかして続々と食堂に集結していた。
 当の本人はざわめきを増す食堂内に『うるさいなぁ』と不満げだったが。

「てめえら静かにしろ! ユーノさんは食事中なんだぞ! 念話にしとけ!」

「司書長って半年間食事を取らなくてもまったく平気って本当なのかな……」

「俺聞いたことあるよ。ユーノさんって他人のリンカーコアを蒐集してそれを栄養に出来るらしいぜ」

「本当に!? いいなぁ、私もユーノさんにリンカーコアを蒐集されたい!」

「俺の魔力で良かったら喜んで献上するぜ!」

 

「……ん? おお!? あれって……クロノ提督じゃね!?」

「うわっ! 本当だ! 時期海の代表になるって噂のクロノ・ハラオウンだ!」

 そんなヒートアップを続ける食堂内に、黒を強調した制服を身につける人物が現れた。
 クロノ・ハラオウン、ユーノ・スクライアの腐れ縁でもあり、親友でもある彼は食事を続けるユーノの元に近づくと、ぽんと肩を叩いて挨拶の言葉をかけた。

「久しぶり、ユーノ。いつ会ってもボロボロだな」

「やあクロノ。どこかの誰かさんが無茶な注文をこれでもかって持ってくるから、食事の時間も満足に取れなくてね」

「ははは……すまないとは思っているが、こっちもこっちで人手も情報も足らなくてな。お陰で助かってる」

「はぁ……ま、隣座りなよ。今日はどんな無理難題を持ってきたわけ?」

「ああ、実は……」

 


「うおおおおっ! 聞いたかよお前ら!? クロノ提督がユーノさんにへりくだってるぜ!?」

「凄い……凄すぎるよ司書長! どれだけ俺達と差を見せ付けてくれるんだ!」

「クロノ提督とユーノさんの模擬戦、ユーノさんの百戦百勝らしいって噂は本当っぽいな!」

「バーカ! それどころかエース・オブ・エース高町なのはとクロノ提督の義妹、フェイト・T・ハラオウン、それと『あの』伝説の六課の部隊長八神はやてと同時に戦って傷一つ負わないんだぜ司書長!」

「マジで!? 鬼過ぎんだろユーノさん! 実は聖王の血筋って話も本当なのか!?」

 

「……なんか、うるさいな」

「いつものことだから気にしないで……」

「あ、ああ……それで、この情報を集めて欲しいんだ」

「うわ……これ難しいよ、かなり。それで、期間は?」

「――出来れば、明日までに……」

「……あのさぁ……あのねぇ……」

 はぁー、と深く深く溜息をついて、ユーノはジト目でクロノを睨む。

「……すまん」

「……いいよ、やってみせるさ。直接会いにくるくらいだ、重要なんでしょ?」

「――ありがとう、ユーノ」

「はは……ま、親友の頼みだからね」

 

「かっけええええええええええええぇ! ユーノさんまじかっけえええええええええええええぇ!」

「濡れるっ!」

「さすがユーノさんだぜ! 俺たちにできないことを平然とやってのけるッ! そこに痺れるあこがれるぅ!」

「知ってるか!? ユーノさんが恋人を作らないのってあまりにもユーノさんを慕いすぎる女性が多すぎて1人を選んだら血みどろの修羅場が巻き起こるからなんだぜ!」

「だったらこれも本当だろ! ユーノさんって魔力を軽く開放しただけで次元震が起こるんだよ! 昔のユーノさんが関わった事件では小規模だったけど実際に起きたらしいし!」

「それ聞いたことある! 『PT事件』だよね!? 気合だけで敵の本拠地を崩壊させたってあの!?」

「それよりもっと凄いのは『闇の書事件』だよ! 絶対に破壊出来ないって言われてた闇の書を完膚なきまでに消滅させたんだぜ!?」

「しかもその方法が暴走した闇の書にアルカンシェル以上の魔力砲をぶつけてコアごと消し飛ばしたんだよな!」

「すげええええええええぇ! 司書長すげええええええええええぇ!」

 

「それじゃユーノ、頼んだ」

「うん、頼まれた。みんなによろしくね」

 そういってクロノは食堂から足を運んだ。途中、血走った目で騒ぎまくる司書達に並ならぬ恐怖を感じながら。

 ユーノはささっと食事を済ませ、狂乱する司書達に向けて大声を上げる。

「さあみんな! なにを馬鹿騒ぎしてるか知らないけど、仕事をしようか! いまからまた忙しくなるよ!」

 その言葉に、先ほどまでの大騒ぎが嘘のようにピタリと止まる。

 そして、全員が声を合わせて、

「「「はい! ユーノさん!」」」

 と全力で叫んだ。

 

 勘違いされまくっていることに気づかないユーノは、元気一杯な職員達に気を良くし、さあ頑張ろうと気合を入れる。
 これが、とある無限書庫のいつもの1ページ。裏のエース・オブ・エース、ユーノ・スクライアと彼を慕う司書達の日常だった。
 彼がそのことに気づくのは、果たしていつになることやら。

 

「おっしゃああああああああぁ! ユーノさんに格好悪いとこはみせられねぇ!」

「おう! みんな、全力全開で頑張んぞ!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」

 

 ……まあ、別に悪いことでも、ないだろう。無限書庫は、今日も彼のお陰でやる気に満ちているのだから。

 

 終わり


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