「うん、それがそのロストロギアの名前」 時空管理局ミッドチルダ地上本部のとある通路にて、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンは次の任務について話を広げていた。 「最近遺跡から発見されてたんだけど、一緒に発掘された文献を解析してみたらなんでも因果律≠操るとか時空≠ノ影響を与えるとか、物騒なことが書かれていたらしいの。 「……気をつけてね、なのは。本当なら一緒に行きたいんだけど私も任務があるし……」 「にゃはは、大丈夫だよフェイトちゃん。慎重に運べば危険なんてきっと無いよ。それに見た目もそんなに物騒に見えないし。 「……無事に帰ってきてね」 「うん、この任務が終わったらヴィヴィオを実家に連れていく約束をしてるし、ちゃんと無事に帰ってこないとね」 そんな何かのフラグ立ちそうなことを言いながら、あはははと笑いなのはとフェイトは別れた。 「――あれ?」 「……大丈夫、だよね」
「カァ! カァ!」 たとえ窓の外にこちらを睨みつけるようにカラスが鳴いていたって。 「ニャー」 どこから紛れ込んだのか、怪しく光る瞳を持った黒猫が前を横切ろうとも、なのはなら――きっと大丈夫。 「……大丈夫、かなぁ……なのはぁ……」 一抹の不安を感じずにはいられないフェイトであった。
二日後の正午。高町なのはがロストロギア『パラドックス』の輸送中、異常な魔力反応を発生させ消滅≠オたという連絡を受け、不安の的中したフェイトはショックの余り意識を失うことになるのだが、それはまた別のお話である。
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『不覚』。ロストロギアを内包していたアタッシュケースから溢れる光に飲み込まれる直前、なのはが思えたことはそれだけ。 「――――あれ? なんか、知ってる天井……って、ロストロギア!」 ガバっとかけ布団を取っ払いながらなのはは起き上がった。 「……ここ、私の、実家の部屋!?」 思わず声を上げた。先ほどまでこの世界とは別の、ずっと離れた別の世界にいたのに。 (というか……お母さんいつのまに私の部屋の模様替えしたんだろう……昔みたいになってる……) 可愛らしいヌイグルミなどが飾られた、小学生時代のような部屋の内装。 (……駄目だ、わけがわからない。とにかく誰かに話を聞かなくちゃ……) 混乱が渦を巻く頭を無理やり落ち着かせながら、ベッドから飛び出そうとする彼女。 「うわっと――――」 地面に身体を打ち付ける前に、片足を床に突きつけてバランスを取ったその瞬間。 「っ!?」 『ゴキッ』っと骨が不気味な音を鳴り響かせ――。 「痛ったああああああああああああああぁ!?」 足、折れた。
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「なのはちゃんまたベッドから降りようとして骨折ったん? 先月も同じことして骨折ったんやで。学習せなあかんて何度もいうてるやんー」 「うん、そうだねはやてちゃん。というか先月≠焜xッドから降りようとして骨折したんだ……」 死んだ魚のような目をしながら、ブツブツと廃人のように棒読みで生返事を返すなのは。 突然折れた足。歳を取っていない家族。迅速に病院へまるで日常茶飯事のように慣れた手つきで運ばれたこと。 (わからないわからない意味がわからない……これは、あれなの? タイムスリップって奴? ロストロギアが発動したせいで精神を過去に飛ばされた?) 何とか現状に起こったことを論理的に説明付けようとするが、如何せんまったくなんの情報もないので確証がもてない。 (私、ベッドから降りるだけで骨折るような貧弱じゃなかったよね!? たしかにあの頃は運動神経悪かったし体もそこまで強い方じゃなかったけど……) ということである。本当に過去に飛ばされたのなら、小学生時代の高町なのははここまで貧弱ではなかったはずなのだ。 なのはの担当医という人からさりげなく聞いたがこの高町なのは、驚くほどに貧弱で病弱だった。 (……SFはあまりよく知らないけど、別の世界≠フ過去の私に意識がトリップしたってこと? ロストロギアパラドックスは因果律≠操り時空≠ノ影響を与える≠チて話だったけど……それならありえない話じゃない、のかな) ロストロギアは、はっきりいってしまえばなんでもあり≠ニいう現象を起こしてしまえるものが多い。 しかしロストロギアはそれをいとも簡単に実現させてしまう。無論、それ相応の危険性を内包してはいるが。 「なのはちゃん、どうしたん? そんなに考えこんで……」 「……あ、ごめんね。ちょっと色々思うことがあって」 「……元気だそう、なのはちゃん! 骨が弱いのがなんなん! 病弱なのがなんなん! 他の人にはない自分だけの個性だって考えれば不思議と愛着わくで?」 「嫌だよ骨がポッキーみたいに折れるアイデンティティーなんて! 痛っ!?」 「ああ、大声だしたら怪我に響くやん」 「うううぅ、なんか昔の事故を思いだすよ……」 「事故? どの? なのはちゃんの足の骨が折れるなんて日常茶飯事やったからぱっと思いだせんなぁ……」 「……なんでもない、ぐすっ、なんでもないよ……」 折れた足をさすりながら涙目になるなのは。そしてはぁーと深い溜息をつく。 (これからどうしよう……もしかしてこのままこの世界で病弱なまま暮らしていかなきゃ駄目なのかな……元の世界はどうなってるんだろう。ヴィヴィオやフェイトちゃん、皆に心配かけちゃってるのかなぁ……ん? あっ!?) ここで、大切な人達の名前を思い出して――初めて重要なことに気がついた。 (もしこの世界も元の世界と同じようにPT事件や闇の書事件が起きちゃったら、私どうしよう!?) もちろん、過去のようにまた同じ事件が起こったとしても、同じようにユーノを助け、フェイト達と出来れば関わり合いそして分かり合いたい。 そして、できることならば助けることの出来なかったプレシアを助けたい、リインフォースだって助けたい。 しかし……。 (こんな走るのものままならない状況じゃ、何も出来ないよー!) 走ったら、折れる。脅威の軟弱さを誇るこの高町なのはでは、フェイトと互角の勝負どころか同じ土俵に立つ前に負ける。 (……いや、待ってよ? そういえばこの私≠ヘ魔法を使えるのかな) 深呼吸をして、前の体と同じ要領で自分の中の魔法の素であるリンカーコアを探しだす。 (……あった! 魔力は全然変わってない……というか寧ろ多い!? 凄い、ユニゾンしたはやてちゃんより多いかも) 嬉しい誤算である。前の体よりも魔力だけは圧倒的に多い。これほどの魔力があるのならば前よりも遠くから砲撃が出来る、前よりも強い砲撃が出来る。 (今の私がフェイトちゃんやヴィータちゃん達に勝ってるのは魔力量≠ニ情報量≠サして経験≠セ。この3つを駆使すれば、なんとかなるかもしれない!) 見えた一筋の光明。助けることが出来るかもしれない大切な人達を思い浮かべる。 (……やろう。皆を、助けたい! 元の世界に返る方法や、この世界の高町なのはのことは後から探そう――。 はやてに気がつかれないようにこっそりと手のひらを重ね、つぼみ状態にして。その中に小さな一個の魔力弾を形成する。 (……出来る! 身体もなんともない! よーし、いまは小学二年生だっていってたから、猶予はあと一年くらいだ。それまで魔法の練習をして戦いにそな) 「ごぼはっ!?」 大量の血がなのは口から噴出した。それはさながら噴水のようで。 「うわあああああああぁ!? なのはちゃんが血吐いたー!? 先生、石田先生ー! 誰か! 誰か先生呼んできてえええええぇ!」 はやての悲鳴を聞きながら、ごぼごぼ血を流しぴくぴくと痙攣するなのは。どうやら魔法もアウトらしい。
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