世界は“可能性”の数だけ無限に存在する。
それは誰かが生きている世界、それは誰かが死んでいる世界。
それは誰かが生きようとしている世界、それは誰かが死のうとしている世界。
それは誰かが殺された世界、それは誰かが殺した世界。
二択の選択肢の中でその1つを選んだ世界。二択の選択肢の中でもう1つを選んだ世界。二択の選択肢の中でどちらも選ばなかった世界。
サイコロの1の目が出た世界。サイコロの2の目が出た世界。サイコロの3の目が出た世界。サイコロの4の目が出た世界。サイコロの5の目が出た世界。サイコロの6の目が出た世界。サイコロの目が出なかった世界。
4面ダイスの世界。6面ダイスの世界。8面ダイスの世界。10面ダイスの世界。12面ダイスの世界。16面ダイスの世界。20面ダイスの世界。24面ダイスの世界。30面ダイスの世界。60面ダイスの世界。120面ダイスの世界。
立方体の世界。正八面体の世界。正十二面体の世界。正二十面体の世界。菱形十二面体の世界。三方八面体の世界。四方六面体の世界。
凧形二十四面体の世界。菱形三十面体の世界。六方八面体の世界。三方二十面体の世界。五方十二面体の世界。凧形六十面体の世界。六方二十面体の世界。
“高町なのは”の居る世界。
たとえば彼女はどこにでもいる普通の少女であり、たとえば彼女はどこにでもいない魔法の力を持つ少女だった。
たとえば彼女は英雄と呼ばれ、たとえば彼女は反逆者と呼ばれた。
たとえば最強の魔導士であった彼女。たとえば最弱の魔導士であった彼女。たとえば魔導士ですらない彼女。
たとえばとある喫茶店を受け継いだ彼女。たとえばとある流派を受け継いだ彼女。
たとえば所謂普通の人生を歩んだ彼女。たとえば所謂普通じゃない人生を歩んだ彼女。
たとえば二重人格を持つ彼女。たとえば多重人格を持つ彼女。たとえば人格すら持たない彼女。
たとえば誰かと恋人になった彼女。たとえば誰とも恋人にすらならなかった彼女。
たとえば誰かと結婚した彼女。たとえば誰とも結婚しなかった彼女。
たとえば誰かとの愛の結晶である子供を生んだ彼女。
たとえば見ず知らずの子供を自分の子として育てた彼女。
たとえば子供なんて関わることすらなかった彼女。
たとえばアリサ・バニングスが友達である彼女。たとえば月村すずかが友達である彼女。
たとえば八神はやてが友達である彼女。たとえば今だ見ぬ誰かが友達の彼女。
たとえばその全てが友達である彼女。たとえば友達なんていない彼女。
たとえば関わる全ての人達を守りきった彼女。たとえば関わる全ての人達を守れなかった彼女。
そして“高町なのは”が居ない世界。
“八神はやて”の居る世界。
たとえば彼女はどこにでもいる普通の少女であり、たとえば彼女はどこにでもいない魔法の力を持つ少女だった。
たとえば彼女はとある魔導書の主に選ばれ、たとえば彼女はとある魔導書の主に選ばれなかった。
たとえば最初から足の動く彼女。たとえば最初から足の動かない彼女。
たとえば運動が好きな彼女。たとえば勉強が好きな彼女。たとえば運動が嫌いな彼女。たとえば勉強が嫌いな彼女。
たとえば血の繋がった家族がいる彼女。たとえば血の繋がらない家族がいる彼女。たとえば家族のいない彼女。
たとえば4人の守護騎士を従える彼女。たとえばそれ以外の守護騎士を従える彼女。たとえば守護騎士を従えない彼女。
たとえば1人の名前を送った者と悲しい別れをした彼女。たとえば1人の名前を送った者と別れることはなかった彼女。
たとえば何かの部署の部隊長になった彼女。たとえば何かの部署すら作らなかった彼女。
たとえば月村すずかと知り合った彼女。たとえばアリサ・バニングスと知り合った彼女。
たとえば高町なのはと知り合った彼女。たとえば今だ見ぬ誰かと知り合った彼女。
たとえばその全てと知り合った彼女。たとえば知り合うことなんてなかった彼女。
たとえば陰謀に巻き込まれて未来永劫氷の柩の中に閉じ込められた彼女。
たとえば陰謀に巻き込まれても全ての悪意を断ち切り夜天に輝きを取り戻した彼女。
たとえば陰謀すら起きなかった彼女。
そして“八神はやて”が居ない世界。
“今だ見ぬ誰か”の居る世界。“今だ見ぬ誰か”が居ない世界。
無限の可能性がある世界。無限の可能性がない世界。出会う世界。出会わない世界。
幸せに満ち溢れた世界。悪意に染まる世界。正義が真である世界。悪が全てである世界。
法則のある世界。法則すらない世界。概念のある世界。概念のない世界。
暗黒物質の宇宙である世界。エーテルの宇宙である世界。海が宇宙である世界。
永遠、永劫、永久に創られ続ける可能性という世界。
無限、無量、無尽に広がり続ける可能性という世界。
神様の居る世界。神様の居ない世界。心優しい神様の居る世界。邪悪な神様の居る世界。
これはその阿僧祇の、那由他の、不可思議の、無量大数の。
或いは不可説の、不可説転の、不可説不可説の、不可説不可説転の中に存在する可能性の“物語”。
それはかみさまとであったなのはというしょうじょのかなしいものがたり。
それはしずかにたしかにゆっくりとくるっていくなのはというしょうじょのおはなし。
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昔々のお話だ。とある世界の“なのは”は願った。強い自分を。誰にも負けない、そして不屈の心を持った自分を。
それは己を省みない、“神様”に心を犯された1人の“なのは”が起こした小さな奇跡。
これは、“なのは”という少女の――神様に立ち向かう不屈なる心の御伽噺。