極彩色のアラベスク模様が世界を覆っている。万華鏡のように廻る抽象画。歪んだ景色。歪みしかない風景。
 そんな気が狂いそうになる幻想に幾人の住民がいた。いや、それは人と言っていいのかすらわからない。
 手足がある。体がある。顔がある。目がある。髪の毛がある。でも、“鼻”がない。事故や怪我でなくなったのではないだろう。
 だって、元より鼻があった場所ならば、それを失ったのならばあのように“丸く突き出ている”はずがない。
 そして人間にはあってはならないものが1つ。“エラ”だ。それは魚介類独自の器官。遥かなる大海原に適応する為に進化したもの。
 首の喉横に、計6箇所の横に刃物で切り取られたような孔。それが独自の生き物の如く動いている。蠢いている。
 例えるならば“蛙”だろうか。人間と蛙の表情を足して割ったら、ああいう風な“生き物”になるのかもしれない。

 ■■ ■■ ■■■■■ ■■■■ ■■ ■■ ■■■■■ ■■■■

 彼らは時折その場所の中心に円を作って集まって、何かを唱えている。歌っている。呟いている。
 普段は唸り声にしか聞こえない言葉しか話さない彼らが、何かを呼んでいる。

 ■あ ■■ くと■■■ ■■■■ い■ ■■ ■■るぅ■ ■■だん

 ふと彼らの形作る円の中心を見てみれば、その中にあるのは何かの肉塊だ。
 心臓のように一定のリズムを取りながら脈動を刻むそれ。あれはなんなのだろう。何の“肉”だろう。

 ■あ い■ くと■ぅふ ふく■■ い■ いあ く■るぅ■ ふ■だん

 歌がはっきりと聞こえてくる。それは背徳的な歌だった。それは背徳的な言だった。それは背徳的な句だった。
 決して言ってはいけない言葉。■■を讃える『 』。

 いあ いあ くと■ぅふ ふくだん い■ いあ く■るぅふ ふ■だん

 或いは私は叫んでいた。それを口ずさむのは止めて、それを呼んではいけないいけないと。
 或いは私は歌っていた。彼らと同じくして、その禁句を、その呪文を、その讃歌を。

 いあ いあ くとるぅふ ふくだん いあ いあ くとるぅふ ふくだん

 歌が完成する。瞬間、世界が狂い始めた。極彩色のアラベスク模様が螺旋を描いて混ぜきった絵の具のように黒く黒く深淵に渦巻いて。
 彼らの上に広がる空間が大きな大きな一滴の雫のように、或いは受胎のように落ちてきた。
 その空間が裂けて、その裂け目から何かが私を除いている。瞼のない邪悪な瞳。薄暗く光り輝くそれが私を見つめている。

 いあ! いあ! くとるぅふ! ふくだん! いあ! いあ! くとるぅふ! ふくだん!

 徐々に歪んだ空間だ裂け目が広がり、その全貌が明らかになる。鰭がある。鱗がある。鰓がある。
 それは明らかに人ではなかった。それは明らかに彼らとも違う存在だ。あれを“生き物”と呼んでもいいのだろうか。
 冒涜的だ。背徳的だ。破戒的だ。見てはいけない。視てはいけない。
 息が出来ない。体が震えている。恐怖が私の全てを奪う。

【■■■】

 “あれ”が何かを呟いている。それは私には理解できない。したくない。

【■■は】

 それでも、その言葉には聞き覚えがある。とても人類には理解できない発音なのに、人間には聞こえることのない高音で発せられているのに。

【■のは】

 いうな。それいじょういわないで。だめだ。なんで。そのなまえは、わた

 

 


「――っ!? ……はっ……はっ…………」

 よく知っている天井。アラベスク模様もなにもない、清潔を思わせる純白の部屋。
 いつもの病室だ。いまでは自分の部屋のような感覚すらある、いつもの病室。

「……また、あの夢……」

 高町なのはが、“2度目”の逆行を繰り返してからというもの――彼女は、そんな夢を見るようになっていた。

 

 


「なのはちゃん、また怖い夢をみたん?」

「……うん」

 そこは八神はやての個室だ。なのはの個室の一階ほど階段を上がってすぐにある405号室。
 なのははベッドの上のはやてに縋り付くように、手を回してぎゅっと抱きしめていた。
 暖かかった。人の体温とはどうしてこうも安らぎを与えてくれるのだろうか。
 いっそ永遠にこうしていたいとすらなのはは思う。

「――もう、なのはちゃんたらしゃーないなー」

 そういってくすくすとはにかんで、はやては優しくなのはを抱きしめる。
 ちょっとしたことで傷ついてしまうなのはの体を、優しく、愛しく、繊細な芸術品を扱うように。

「ごめんね……」

「ええってええって。こんなんでなのはちゃんが落ち着くならお安い御用……いや、むしろ役得やな。なのはちゃんの体は柔らかくて気持ちいいしなー」

「にゃはは、はやてちゃんくすぐったいよぉ」

 いままさに、なのはは本当の安らぎを得ることが出来ていた。
 怖い夢も、怖いことも。体が弱いことも、魔法のことも、これからのことも、危機も、危険も全てを忘れることが出来たから。

 だがそれと矛盾するように、同時に“だからこそ”となのはの挫けそうな心が輝きを増す。
 自分が頑張らなければ、この優しい友達も、ジュエルシードによって巻き起こる次元振で消えてしまうか、もしくはギル・グレアムの計画によって氷漬けにされてしまうのだ。

 高町なのはに、1人の人間に出来ることなどたかが知れている。しかし、その“たかが”こそが重要なのだ。
 この世界も、八神はやてもフェイト・テスタロッサも、アリサ・バニングスも月村すずかもユーノ・スクライアも。
 なのはが魔法少女としてプレシアテスタロッサを止めなければ、ギル・グレアムを止めなければ、なのはの大好きな人々は消えてしまうかもしれない。

 それは別の世界の出来事だ。それは違う未来の出来事だ。この世界がそうと決まっているわけではない。
 元の世界のなのはが健康優良児であったように、この世界のなのはが健康不良児であるように、全てが前の世界のようになるとは限らない。

 それでも、一%でも前の世界のような事件が起こる可能性があるのならば、なのはは戦う。
 たとえ謎のタイムスリップという逆行を繰り返そうとも、何度骨が折れようとも心が砕けようとも。

「……はやてちゃん」

「うん?」

「はやてちゃんがいるから、私は頑張れるんだ」

 八神はやてがいるから、フェイト・テスタロッサがいるから、アリサ・バニングスがいるから、月村すずかがいるから、ユーノ・スクライアがいるから、父親がいるから、母親がいるから、兄がいるから、姉がいるから、クラスメイトのみんながいるから、病院のみんながいるから、この街のみんながいるから、未来に知り合うことになるであろう沢山の人々がいるから。

 高町なのはは、どんな逆境も越えていける。

「だからはやてちゃん、ずっと私の傍に居て。絶対に、居なくなっちゃ嫌だよ」

「……あ、あははは……な、なんや、なのはちゃんにプロポーズされてもたなー」

 そう茶化すように、顔面を熟した果実のように真っ赤に染めてはやては呟いた。
 心なしか、なのはに伝わる体温もどんどん暖かくなっている。

「……大丈夫やよなのはちゃん。私はどこにもいかへん。ずっとなのはちゃんの傍にいる。
 私はなのはちゃんが大好きやから」

 高鳴る心臓を押さえるように、なのはに聞こえるくらいに高鳴った心臓を落ち着けるようにして、なのはの耳に届いたのはそんな言葉だ。
 それはある意味での愛の告白。生涯共にいることを誓う桃源郷の契り。

 この瞬間、なのはの心に光が“戻った”ような気がした。深淵すら照らしてしまいそうな不屈の心。
 神様だって相手に出来そうな、不滅の闘志。どんな鉄よりも硬く、どんな衝撃だろうと折れない魂。

「――ありがとう、はやてちゃん。私も、はやてちゃんが大好きだよ。
 絶対に……守ってみせる。あなたを、みんなを」

 高町なのはの真の強さとは。その膨大な魔力ではなく、その莫大な魔法の才でもなく。
 “不屈の心”という、諦めない意思そのものなのだから。

 

 ■■■

 

 なのはがはやての病室から出て、階段を下りたところに丁度歩いて来たのは八神はやての主治医である石田幸恵だった。

「あ、石田先生! こんにちは!」

「え? あ、うん、こんにちは。今日は元気ねなのはちゃん」

 石田は驚いていた。八神はやての友達である高町なのはの変貌に。
 いや、変貌というものではないだろう。彼女は元々これくらいの元気がある少女だと記憶している。
 しかし最近は枯れた花のように憂いた表情しか浮かべていなかったし、元気の“げ”もみないほど何かに疲弊していたのだ。

 それがどうだろう。この日向に咲く活力に溢れた可憐な笑顔は。
 昔の元気な高町なのはに戻ったどころか、さらに元気な高町なのはに変わっている。
 その目にはやる気が満ち溢れ、見るものさえもやる気が出るような、そんな強い眼差し。
 何があったかは知らないが、きっととてもいいことがあったのだろう。

「石田先生! 私頑張るよ! いつだって! どんな時だって!」

「そっか。でもね、なのはちゃん。頑張りすぎは体に毒ですよ? ほどほどにね」

「はい!」

 そう返事をして、なのはは軽やかな足取りで自分の病室へと戻っていった。

(何があったかはわからないけど……頑張ってね、なのはちゃん)

 石田自身が担当している八神はやてと同じく“原因不明”の病気を抱える彼女がこれほどまでに活気に溢れている。
 ならばその親友であるはやてちゃんにもいい影響があるに違いない。石田はそんな嬉しい予想を立てて気分が浮き立った。

 

 ああ、きっとそうだ。

 

 はやてちゃん、今日は病院に居ないけど、次に来たときにはきっと喜ぶわ。と小さな呟きを残して。

 

 ■■■

 

 はやてに勇気を貰い、その不屈の心を取り戻したなのはは火気厳禁の燃料にガスバーナーでもぶち込んだように燃えていた。
 今度は、確実にユーノを助けてみせると意気込む彼女。

 そのためにはまず、綿密な計画、そして魔法以外の武力が必要なのではと考えた。
 なのはが前回の逆行を繰り返す前に覚えていたことは、ユーノの使った念話によって多大なダメージを受けて行動不能になったということだけ。

 その点についてはすでに対策は出来ていたし、それだけならば大した問題ではない。
 しかしこの体は魔法を使えない。いや、使えることは使えるが使った瞬間に吐血や激痛といった謎の症状が現れるのだ。
 尋常ではない痛み。下手をすればショック死さえしてしまいそうなそれらを我慢しながらスムーズに戦えるだろうか?

 答えは否だろう。無論、なのははユーノやはやてを助けるためならば自身の痛みなど苦にしない覚悟は出来ている。
 しかし、その為に動きや思考がおろそかになって、下手なミスで守りたい人達が傷ついてしまっては本末転倒だ。

 ――魔法は“ここぞ”というところだけで使わなければならない。
 いままでこの体で魔法を使った経験、そして耐久力を計算にいれると、魔法の度合いにもよるが使用できて“3回”ほどだ。
 それは精神力だけではどうしようにも超えられない壁。いかに不屈の心が限界無き力を持とうと、その器には確かな限界がある。

 3回以上の魔法の使用は、おそらく手足が動かせなくなるほどの満身創痍状態になるか、或いは“死”だろう。
 なのはも人間だ。当然死ぬのは怖い、十分すぎるほどに。しかし、それ以上に怖いのは“友達を守れない”ということ。

 だからこそ――“今の”高町なのはには、魔法以外の“力”が必要なのだ。

 

 なのはちゃんの様子がおかしい、と月村すずかが気づいたのは、よく利用している図書館で彼女の姿を見かけた時だった。
 図書館で彼女を見かけるのは特に珍しいことではない。高町なのははすずかの友達の中でも一番の読書家だ。
 最近はあまり読書をしている光景を目にしていなかったが、少し前は一週間に数十冊の本を読みきってしまっていたほどで。

 八神はやてと共に一緒に読書をしているのはよく見かける光景だ。
 すずか自身もなのはと一緒に何回とこの図書館ですごしたこともある。
 そこに然したる問題はない。問題なのは、彼女が机の上に山積みにしている本の“タイトル”だった。

 すずかはこっそりとなのはに見つからないように、慎重に後ろからそれを覗き込む。
 幸いにもなのはは本に集中しているようでまったくすずかに気がついていない。

 『危険な化学シリーズ・爆薬と爆弾』、『清く正しいダイナマイトの作り方』、『法律に触れるから決して作ってはいけない日用品で作れる“兵器”講座』、『効果的な爆弾設置術』、『戦国時代から現代までの火薬製造法』、『武器商人に会おう!』、『密輸』、『男のロマン・手榴弾』、『良い子のパイプ爆弾』。

 そんななんで貸し出し許可が下りているのか不思議でならないほどの危ないタイトルが勢ぞろい。

 すずかは思わず自分の目を疑った。私の友達が、なのはちゃんがこんなものを嬉々して読むはずがない、と。
 しかしいくら目を擦っても、やはりすずかの視界に移るのはそんな有害図書を嬉々として読み漁るなのはの姿だった。

「へー、パイプ爆弾って威力が高い割に結構簡単に作れるんだ……問題は爆薬だよね……どうしよう……」

 すずかは思わず自分の耳を疑った。私の友達が、なのはちゃんがまるでパイプ爆弾を作りたがるように呟くはずがない、と。
 しかしいくら耳を叩いてみても、やはりすずかの聴覚に聞こえてくるのは嬉々として爆弾を作りたいようななのはの呟きだった。

(な、なのはちゃん……? どうしちゃったの……? 爆弾なんて作って何するの……)

 自分の愛する友人の異常な行為。これをどう受け止めていいのかすずかにはわからなかった。
 年頃になれば、“性”に関する知識を欲するというのは聞いたことがあっても、年頃になると“爆弾”に関する知識を欲するというはまるで聞いたことがない。見たこともない。

 それに爆弾なんてものを作って一体何に使うというのだろうか。
 爆弾の使用法など限られている。鉱山で固い岩盤を爆破したりといった比較的平和な使い道から――。
 もしくは、考えてはならない最悪の使い方。まさか、なのはちゃんは……と、そこまで考えてすずかは頭を振った。

(いや、待って。なのはちゃんはただ何かが切欠で少しだけ爆弾に興味を持っただけかもしれない。なんというか……興味本位で!
 それに、もしも使うにしたってきっと山の中で岩石とかを破壊するだけだよね! うん! きっとそうだ! あの優しいなのはちゃんが爆弾なんて危ないものを“人”に対して使うわけが……)

「でもあいつに爆弾って通じるのかな……何回か爆散させれば弱りそうではあるけど……」

(使う気だったー!? しかも『通じるのかな』ってなに!? 通じるに決まってるよ! むしろ死んじゃうよ! 何回か爆散させれば弱りそうって……何回爆殺する気なの!?)

 当然、なのはのいう“あいつ”とは暗闇の如き姿を持つジュエルシードの暴走体である。
 しかしそんなことをすずかは知らない。なのはが爆弾を作りたがっているという衝撃、それに激しく動揺したすずかの頭脳はまともな思考が出来出来ていなかった。

 すずかの脳には“なのはは誰かを爆殺したがっている”という謎の固定概念が出来上がっている。
 想像力の豊かすぎた、思いやる心のあり過ぎた、悲しき少女が産んだ勘違い。もはやすずかは止まらない。止めることすら出来ないだろう。

(だ、駄目だよなのはちゃん……! そんなことしちゃ駄目! なんで? あの、優しいなのはちゃんが……なんでそんな恐ろしいことを……)

 すずかの脳にフラッシュバックする光景。それは、約二年前。小学一年生だった彼女達のファースト・コンタクト。
 昔のアリサ・バニングスは、普通の子供らしいわがままな子で、やんちゃの入った少女だった。一方月村すずかは、少しだけ影の入った、“暗い”とまで思わせる少女。

 アリサはそんなすずかに『気取っている』と感じたようで、ちょっとした意地悪のつもりですずかの大切にしているヘアバンドを取り上げてしまった。
 一方すずかはどうしていいかわからず、ただ静かに泣くだけ。その態度にアリサはまたムカついて、あわや喧嘩になりそうなところに割って入って来たのが――高町なのはだった。

 なのははいきなりアリサにきついビンタをかまし、大声で言ったのだ。『痛い? でも、大切なものをとられちゃった人の心は! もっともっと痛いんだよ! ……ごめん、腕折れた……救急車呼んで……痛くて泣きそう……』と。

 ありえない方向に捻じ曲がったその腕を見て、すずかは衝撃のあまり失神してしまったが、その時のことはよく覚えている。
 あとで聞いた話だが、なのはの体は原因不明の病気により、冗談としか思えないほど体が弱かったらしい。

 それなのに、なのははアリサを叩いたのだ。アリサの行いを悪いことだとわからせる為に、ただ泣くことしか出来なかった自分を助ける為に。
 自分がどれほど弱い体をしているのか、それを一番知っているのはなのは自身であったろうに。
 そんな体で全力ビンタなどすれば、どうなるかわかっていたはずなのに。
 さらには、その後すずかとアリサの仲直りを取り持ってくれて――。

 高町なのはは月村すずかの親友であると同時に、“憧れ”だった。
 優しいなのははとっても格好よくて、とっても凛々しくて、綺麗で。自分にはない物を沢山持っていて。
 そんななのはの親友である自分が嬉しくて、少しでも釣り合おうと勉強も運動も頑張って、いまの月村すずかがある。いまの月村すずかがいる。

 なのに、そんななのはが今、爆弾という危険なものを使って人を殺めようとしている。
 信じられなかった。信じたくなかった。勘違いであって欲しかった。

 実際に勘違いであるが。

(止めないと……なのはちゃんは私とアリサちゃんの間違いを正してくれた……今度は、私がなのはちゃんに恩返しをする番だ!)

 そう、すずかは胸に誓って。目を見開き眼前のなのはに向かい、悲鳴に近い叫び声を上げる。

「なのはちゃん! 駄目ぇ!」

「ひにゃぁ!?」

 後ろから突然大声を上げられたなのはは驚いて思わず席を立つ。
 その声の方向に振り向くと、鬼気迫る親友の顔が1つ。

「す、すずかちゃん!? お、驚かせないでよ……心臓止まるかと思ったの……」

「なのはちゃん……なのはちゃんは一体何をしようとしてたの?」

「な、なにって……あっ!?」

 ぎくっ、となのはは肩を震わして現状を理解する。よくよく考えてみれば図書館でこんな本をかき集めて読み漁っている人物がいればなんと思われるだろうか。
 しかもそれが知り合いなら尚の事。きっとすずかちゃんは私が危ないイタズラでもしようとしているのではないだろうかと勘違いしているに違いない、となのはは思って、必死に言い訳を探す。

「えっ、えっとね、その……」

「言い訳なんて聞きたくない!」

「えっ!?」

「なのはちゃん、なのはちゃんがなんでそんな怖いことを思い立ったのか、それは私にはわからない……。
 優しいなのはちゃんがそこまで追い込まれてる出来事なんて、想像も出来ない……。
 でも、なのはちゃんのやろうとしてることは間違いだってことくらいわかるよ!」

「ええっ!?」

 魔法と相対するような化学兵器を用いてジュエルシードの暴走体に挑もうとしていたのは間違いだったの!?
 と自身の戦略を全否定されたなのはの思考が混乱の渦に巻き込まれる。

「戻って! いつもの優しいなのはちゃんに戻って!
 ねえ、お話して? なのはちゃんいつもいってるよね。お話しないと何もわからない、伝わらないって。私に話して、なのはちゃんがそこまで追い込まれた理由を!」

(いや話せるわけないよ!?)

 十年後の未来からロストロギアでこの世界に精神だけ吹き飛ばされて、魔法使いやってますなどと話せるわけがない。話したとしても信じてもらえるわけもない。
 というかなんですずかちゃんがそんなこと知ってるの!? はっ、まさかこの世界のすずかちゃんは魔導師!? と、いよいよなのはの理解力も怪しげになってきた。

「私は、私は! なのはちゃんが大好きな、なのはちゃんの友達だから! 辛いことも、悲しいことも! 全部わけあうのが友達だと思うから! なのはちゃんを犯罪者なんかに――させないんだからああああああぁ!」

 

 その後、この混沌めいた騒ぎは図書館長に2人が叱られるまで続き、双方がさまざまな勘違いをしているのに気づくのは、それから二日後のことだったそうだ。
 その際に爆弾のことを調べていた言い訳として、なのはが『爆弾フェチ』に目覚めたことになってしまって、アリサやクラスメイトから生暖かい目で見られるようになったが、これもみんなを守る為だとなのはは涙を呑んで耐え忍んだらしい。


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